小川さんといえばフジテレビの「小川宏ショー」。実に17年間4451回に及ぶ長寿番組でした。
平成五年、小川さんは自らうつ病であることを公の場(テレビ朝日「徹子の部屋」)で告白されました。小川さんのような有名人の堂々たる告白は、うつに悩む人々やその家族に大きな励ましとなり、放送後、テレビ朝日に寄せられた電話や手紙はスタッフを驚かせるほどの多さだったそうです。
傘寿を迎えた今もなお、時折テレビ・ラジオに出演するかたわら、講演や執筆で活躍しておられる小川さんにお話をうかがいました。
明るくて、プラス思考で、周囲の人を和ませていた小川さんはうつ病とは縁がなさそうな方だと思っていました。
小川さん:ストレスの多い現代、うつ病は誰がかかってもおかしくない病気です。統計的に見ると、仕事熱心で責任感が強く、正義感のあるまじめな人に多いそうです。よい意味で《いい加減》に過ごせればよかったんでしょうね。
入院当日さっそく抗うつ剤と睡眠薬が投与された。九時の消灯時間から翌朝六時までぐっすり眠ることができた。なにも考えず静かに日を送るうち、症状は少しずつ快方に向かっていった。
小川さん:入院して一月ばかりたったころ、症状が前より悪くなったような時期がありました。先生に訊くと、治っていく通過点のようなものだからご心配なく、とのことでした。そんなときに病院宛に友人からの手紙が届きました。
手紙には、「自分もかつてうつ病にかかったことがある。その経験上いまごろがいちばん辛いときだと思う。でも、あと一息で『辛+一で幸』になるよ」と書かれていた。
小川さん:その文字を見た瞬間、処方箋にはない薬のようなものを感じました。持つべきものは友だとも思いました。彼に限らず、たくさんの方のお力添えに支えられて自分は生かされてきたんだな、と実感しました。私はそのとき66歳でしたが、遅まきながらの反省です。以来自分でも、心身の不自由な方へのまなざしが、少しやさしくなったような気がしています。
その後、妻の富佐子さんにも病が訪れた。小川さんの退院後まもなく、軽いうつ病で一か月の入院生活。そして平成七年夏、子宮頸癌が発見された。術前術後合わせて六か月富佐子さんは入院した。手術日当日、執刀医が「不良がヤクザにならないよう更生させますからね」といってくれたという。
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「こんなに元気になりました!」富佐子夫人と自宅近くの江戸川堤を散歩する小川さん。 |
小川さん:けだし名言ですよね。六時間に及ぶ大手術でしたが、最初から、時間がかかりますよ、大手術になりますよなんていわれたら、小心者の私など落ち着いてはいられなかったでしょう。しかし、そのユーモアのある言葉のおかげで、先生を心底から信頼して待つことができました。言葉の持つ力は大きいですよ。
退院してから十年以上たつが、富佐子さんは夫の家事サポートを受けながら元気に陽気に過ごしている。健康維持のため、半年に一度の検診は欠かさない。
小川さん:私たち夫婦は、医療関係者に恵まれて今日まで生きてこられました。いま病んでいらっしゃる方たちには、病は気からとも申します、どうぞ気力を持って病に立ち向かってくださいと申し上げたい。いまはお元気な方も年に一度、できうれば半年に一度検診を受けましょう。生かされているという感謝と感動を持って日々を送りたいものです。
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小川宏プロフィール
1926年東京生まれ。49年にアナウンサーとして日本放送協会(NHK)に入局。55年から10年間にわたり、人気番組「ジェスチャー」の司会を務める。65年に退局後フリーとなり、フジテレビの「小川宏ショー」で活躍。「初恋談義」などの人気コーナーが好評を博し、17年間4451回に及ぶ長寿番組に育て上げた。現在は時折テレビ・ラジオに出演するかたわら、講演や執筆で活躍中。著書に『宏です。小川です』『夫はうつ、妻はがん』(ともに清流出版)がある |
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