知遊vol.20(2013年7月5日 発行)
【知遊の人】
《家族》の姿を描き続けて半世紀近く
ドラマの底に流れる透徹した《眼》
山田太一(脚本家・作家)
【感謝状】
歴史に刻まれる黒田東彦日銀総裁への期待
黒田東彦さんの10年間におよぶ本誌・編集委員、連載執筆に感謝
【インタビュー構成】
この国に「無私」の魂を呼び戻したい!
磯田道史(本誌編集委員、歴史学者、作家、静岡文化芸術大学准教授)
【一枚の絵】
画家としてのキャリアだけでは語りきれない藤島武二の深い矜持
柳沢秀行(大原美術館学芸課長)
【仲代達矢の 無名塾へようこそ】
ゲスト~上川隆也(俳優)
「大地の子」で日本中を沸かせた「父と息子」の再会
仲代達矢(本誌編集委員、俳優、無名塾主宰)
【動物行動学の視点】
動物たちの雄と雌
・雄雌の性の世界を探る
今福道夫(本誌編集委員・京都大学名誉教授)
【やまだ紫の世界】
魂は老いたかという鮮烈な問いかけ
白取千夏雄(編集者、やまだ紫・夫)
【囲碁と読書は友だち】
ひたすら凧をつくり、ついには空を飛ぶ鳥人・幸吉の夢に感動
マイケル・レドモンド(プロ棋士・日本棋院九段)
【中国古典に学ぶ】
殷鑑遠からず
・『詩経』
守屋 洋(中国文学者)
【ここが違う菌の常識】
菌は世につれ、世は菌につれ
青木 皐/高田美果
【ヒューマンドキュメント・医療機器を開発した人たち】第20回
世界で最も低い新生児死亡率の実現に寄与した
「アトム保育器」開発物語PART2
福山 健
特集記事
「知遊の人」は山田太一さんをお招きしました。
作家・脚本化としてテレビドラマ史上に残る作品を数々世に送り続けてこられた山田さんのエピソードをお楽しみください。

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山田太一(やまだたいち)プロフィール
1934年東京都生まれ。脚本家、作家。58年早稲田大学教育学部国文学科卒業後、松竹大船撮影所に入り、助監督として木下恵介監督に師事。65年に退社、以後、主としてテレビドラマの脚本を執筆。主な作品に「それぞれの秋」「岸辺のアルバム」「沿線地図」「獅子の時代」「想い出づくり」「ふぞろいの林檎たち」「日本の面影」「ありふれた奇跡」「キルトの家」など。小説には山本周五郎賞を受賞した『異人たちとの夏』をはじめ、『飛ぶ夢をしばらく見ない』『終りに見た街』『丘の上の向日葵』『冬の蜃気楼』『空也上人がいた』など。エッセイには『いつもの雑踏いつもの場所で』『誰かへの手紙のように』『親ができるのは「ほんの少しばかり」のこと』など。戯曲に『ラブ』『日本の面影』『二人の長い影/林の中のナポリ』など。『リリアン』は、初めての絵本。映画「少年時代」で日本アカデミー賞最優秀脚本賞。向田邦子賞、菊池寛賞など受賞多数。
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寺山修司はどんどん変わった でも、会うときはいつも昔のままだった
――「岸辺のアルバム」「ふぞろいの林檎たち」「早春スケッチブック」など、本当にテレビドラマ史上に残る作品をたくさんお書きになっていますが、いっぱい想い出がおありでしょうね。
テレビを観ている視聴者とあまり変わらない、ごくありふれた家族の日常を描きながら、その家族に「なんてありきたりの暮らしをしているんだ!」と罵声を浴びせる人物を登場させる。その人物・沢田竜彦には山崎努、罵声を浴びる側の家族の父親、平均的な暮らしをしている信用金庫の課長望月省一役には河原崎長一郎、沢田の実子だが望月の息子として育てられる高校生・和彦役を鶴見辰吾、その母都には岩下志麻がキャスティングされた。83年1月7日から3月25日まで、全12回連続で放映されたこの作品は、視聴率があまり高くなかったにもかかわらず、「男たちの旅路」と並んで反響が大きく、名作ドラマランキングでいつもベストスリーに入っている。DVDが、新品でなくても定価の倍から3倍で取引されているのにも、その人気の高さがうかがえる。
寺山修司没後30年の今年、映画、演劇、展示、多岐にわたるイベントなどで空前の寺山ブームが起きているという。関連本の出版もある。別冊『太陽』は寺山修司を特集、その58ページに山田太一さんが「昔はメールがなかった」という文章を寄せている。数本の往復書簡文とともに、若き日の山田さんの筆跡が載っている。人は、出会った人によって自己形成していくものだというが、この二人の出会いは、本当にいいものだったので
あろうと思わせる寄稿であった。
敬愛し、憧れた人笠智衆さんの前ではいつもドキドキしていた
――テレビドラマがビデオやDVDで保存できるようになって、昔観て感動したドラマにまた逢えるのは、本当に嬉しいことです。先日も、山田さんが笠智衆さんを主役にしてお書きになった、「ながらえば」「冬構え」「今朝の秋」などを観て、リアルタイムに観たときとは、私自身が年を重ねましたし、感動が深くなったような気がしました。
「今朝の秋」の大詰めで笠さん扮する老いた父親が、大声で昔はやった「恋の季節」を歌うシーンがある。
♪死~ぬまでわたしを~
ひとりにしないと~
余命いくばくもない息子(杉浦直樹)を囲んで、かつて家族みんなで歌った「恋の季節」を、遺される者たちが声をそろえて歌う。笠さんのひときわ大きな調子っぱずれな歌声。「初めて聞いた、おじいちゃんの歌、最高!」と孫娘がいう。死を迎えようとする人、生き続けなければならない人、それぞれがどう死を受け止めるか、山田さんのペンが淡々と描いたシーンは、名優たち(笠さん、杉村春子、杉浦直樹、倍賞美津子さんたち)の演技とともに心に深くしみてきた。
こうした場面を描くとき、山田さんのまなざしは限りなくやさしい。幼いときに母や兄たち、愛する家族に死なれてしまい、遺された子供を育てることに必死だった父の背中を見つめ続けた山田さんは、男親の強さや弱さ、やさしさや醜さをあるがままに受け入れて描き続けているようだ。ときには男としてのプライドを捨ててでも、愛するものたちを守ろうとした不器用な父の人生が、ドラマの登場人物に透けて見えるような気がする。
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