知遊vol.30(2018年7月5日 発行)
【知遊の人】
奈良岡朋子(俳優、劇団民藝代表)
「うまい役者」「いい役者」という言葉を超える存在
──初めから役者志望ではなかったのに、いつのまにか七〇年たってしまった
『知遊』アーカイブス①「知遊の人」
【一枚の絵】
大原美術館の看板娘──飛び切りの輝きとメッセージをお客様に
児島虎次郎「和服を着たベルギーの少女」
柳沢秀行(大原美術館学芸課長)
『知遊』アーカイブス②「一枚の絵」
【仲代達矢の無名塾へようこそ】
「無名塾へようこそ」最終回のゲストはきみたちだ!
演劇の未来を語ろう!
ゲスト 岡本舞(俳優、無名塾3期生)、西山知佐(俳優、同9期生)、長森雅人(俳優、同10期生)、松崎謙二(俳優、同11期生)
仲代達矢(俳優、無名塾主宰、本誌編集委員)
『知遊』アーカイブス③「仲代達矢の、無名塾へようこそ」
【動物行動学の視点】
「豊かな自然」再考──生きものたちのさまざまな工夫
今福道夫(動物行動学者、京都大学名誉教授、本誌編集委員)
『知遊』アーカイブス④「動物行動学の視点」
【囲碁と読書は友だち】
アマチュアの方々との指導碁を通じて学ぶこと
──「大洋会」との出合いは、最高の笑いと学びの場となった
マイケル・レドモンド(プロ棋士、日本棋院九段)
『知遊』アーカイブス⑤「囲碁と読書は友だち」
【磯田道史の古文書蔵出し話 お蔵入りの扉を開く】
三つの提案
(1)小学生たちに史蹟の発掘体験を!──歴史遺産の価値を知る
(2)ちょっと待ってくれ!──人間の品格はやせ我慢に宿る
(3)既存路線の踏襲ではいけない!──「官僚知」より「思想知」を
磯田道史(歴史学者、国際日本文化研究センター准教授、本誌編集委員)
『知遊』アーカイブス⑥「古文書蔵出し話」
【特別寄稿】
経済学史の旅──いま、経済学の古典からなにを学ぶか
黒田東彦(日本銀行総裁、前一橋大学大学院教授、前本誌編集委員)
『知遊』アーカイブス⑦「黒田東彦の世界を見る眼」
『知遊』アーカイブス⑧「表紙」勝木雄二
『知遊』アーカイブス⑨「知遊対談」木村尚三郎
『知遊』アーカイブス⑩「Chi Yu ESSAY」犬丸直
『知遊』アーカイブス⑪「特別寄稿・名著探訪」
『知遊』アーカイブス⑫「立松和平の、この人に会いたい!」
『知遊』アーカイブス⑬「児玉清の書斎へようこそ」
『知遊』アーカイブス⑭「中国古典に学ぶ」守屋洋
『知遊』アーカイブス⑮「ここが違う菌の常識」青木皐/高田美果
『知遊』アーカイブス⑯「やまだ紫の世界」白取千夏雄
『知遊』アーカイブス⑰巻末特集「ヒューマンドキュメント」
医療機器を開発する人たち
福山健(ジャーナリスト)
【編集後記】
特集記事
「知遊の人」には、日本の新劇界を長年にわたってリードしてこられた奈良岡朋子さんをお招きしました。初めは役者志望ではなく演劇サークルに入った奈良岡さんは、たまたま舞台に立ったことをきっかけに役を演じるようになりました。途中で投げ出すことなくコツコツと続け、いまや日本舞台の俳優代表といえる存在になっています。

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奈良岡朋子(ならおか・ともこ)プロフィール
1929 年東京・駒込(現・東京都文京区)生まれ。劇団民藝の法人取締役および劇団共同代表を務める。父は洋画家の奈良岡正夫。女子美術大学卒業。女子美在学中の1948 年、民衆芸術劇場付属俳優養成所に1期生として入所、「女子寮記」「山脈」などに出演。1950 年劇団民藝(第2次)創設に参加、「かもめ」に出演。1954 年「煉瓦女工」で初主演。「イルクーツク物語」「奇跡の人」「ガラスの動物園」「火山灰地」「放浪記」「華岡青洲の妻」などに出演し、舞台俳優として活躍する一方、映画、テレビドラマにも出演。出演映画の主な作品は、「どですかでん」「はなれ瞽女おりん」「釣りバカ日誌シリーズ」「鉄道員」「ホタル」など。テレビドラマは「ありがとう」「女たちの家」シリーズ、「ゼロの焦点」、NHK大河ドラマや連続テレビ小説のナレーションなど多数。近年の舞台作品には、「根岸庵律女」「浅草物語」「ドライビング・ミス・デイジー」「カミサマの恋」「二人だけの芝居」など。それぞれの活躍に対して、ギャラクシー賞、ブルーリボン助演女優賞、芸術祭賞大賞、毎日芸術賞、朝日舞台芸術賞、読売演劇大賞優秀賞・芸術栄誉賞など受賞多数。
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女子美の部活動から始まった、演劇の世界とのつながり
――お父様が洋画家で幼いころから絵筆に親しみ、大学も女子美術大学を卒業された奈良岡さんが、演劇の道に進まれたきっかけは?
――民藝養成所の入所試験となりますと、大変な難関だったでしょう?
 仲代達矢さんとの共演、全国を巡演して楽しかった!
──2005年、無名塾の仲代達矢さんと民藝の奈良岡朋子さんというビッグな顔合わせで、「ドライビング・ミス・デイジー」の公演が始まりました。
「公演の数年前、九州の演劇鑑賞団体の事務長から、2人の顔合わせでの芝居を観たいというご提案があったんです。そこで民藝の演出家・丹野郁弓が、自分の翻訳したものを四本ばかり用意してくれました。そのなかにあったのが、『ドライビング・ミス・デイジー』です」
アルフレッド・ウーリー作「ドライビング・ミス・デイジー」で奈良岡さんが演じたデイジーはユダヤ系の元教師で、72歳の独立心旺盛な女性。一人でしっかり暮らしているが、あるとき自動車事故を起こしてしまう。心配した息子のブーリー(民藝の千葉茂則、無名塾の長森雅人のダブルキャスト)が母のもとへ送り込んだのは、黒人の運転手ホーク(仲代達矢)だった─。この物語の舞台となっているのは、人種差別が色濃く残る、アメリカ・ジョージア州アトランタ。72歳から97歳までの日々が描かれるデイジーは、しだいにホークに心を開き、彼に「私のいちばんの親友」と呼びかけるようになる。
「あの作品は楽しかったなあ。初演の能登演劇堂(石川県七尾市)は、舞台の奥の扉がパーッと開くんです。カーテンコールでは、大きく開いたホリゾントから本物の赤いオープンカーが登場するんですが、運転手役の仲代さんは助手席に座っていらして、運転するのは私でした(笑)」
幕が下りるまでは97歳のおばあさんに扮していた奈良岡さんが、真っ赤なレザーのコートを颯爽と着こなしてオープンカーを転がし、助手席の仲代さんも若々しく登場、観客は熱狂して拍手喝采した。能登演劇堂ならではの舞台構造を生かした、演出家の丹野さんのアイデアによる粋なパフォーマンスであった。
「ドライビング・ミス・デイジー」は能登演劇堂を皮切りに、2009年まで毎年全国各地を回り、160か所、延べ公演回数315回に達する公演を行った。2005年の初演の舞台は、各種の演劇賞を授与されている。文化庁の芸術祭大賞を共演の仲代さんとともに受賞したほか、奈良岡さんは毎日芸術賞と朝日舞台芸術賞にも輝いた。
──奈良岡さんは舞台で役を演じていらっしゃるとき、「素」になることは一瞬たりともないのでしょうか。
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この対談は、『知遊』から抜粋し、奈良岡朋子さんのご了解を得て収載しています。――編集部
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